馳星周「少年と犬」読書会概要2020年10月
読書会の概要です。
開催日時:2020年10月17日土曜日19時30分〜
開催地:東京
課題図書:馳星周『少年と犬』(推薦者:ピクルス騎士団・団長さん)
一匹の犬とさまざまな事情を抱えた人々の交流を描いた本書は、ノワール小説の旗手、馳星周が描いた異色の連作短編集です。2020年5月15日に文藝春秋から刊行され、同年7月5日に第163回直木賞を受賞しました。帯に記された《人という愚かな種のために、神が遣わした贈り物》という引用が鮮烈で、書店通いを習慣にしている方であればまだ読まれていなくてもこの本の存在を記憶している方は多いかと思います。なお、収録作品の初出誌はすべて『オール讀物』で、2017年10月号から2020年1月号まで全6話が掲載されました。
連作短編集『少年と犬』とその構成
東北から九州を目指すシェパードの血の濃い雑種犬「多聞」の旅を主軸に物語は展開します。旅が主軸とはいえジャック・ケルアックの『路上』のような紀行文風の小説ではありません。「多聞」は叙述しません。小説全体の理念としてアナロジーの働きを限定的に捉えてはいませんが、物語内で「多聞」が擬人化されて描かれている場面はありません。「多聞」は徹頭徹尾、犬です。私の顔見知りにはとうてい犬らしくもない犬が幾分混じっていますが、「多聞」はどこまでも犬らしい犬で安心です。だからこそより一層、《人という愚かな種のために、神が遣わした贈り物》という言葉が自然な説得力を放ちます。本書は三人称で描かれています。各話の視点者は《愚かな種》の構成員、「多聞」が旅の途上で出会うさまざまな事情を抱えた人々の方です。
以下、各話のタイトルを順に記します。
「男と犬」(オール讀物2018年1月号)
「泥棒と犬」(2018年4月号)
「夫婦と犬」(2018年7月号)
「娼婦と犬」(2019年1月号)
「老人と犬」(2020年1月号)
「少年と犬」(2017年10月号)
『少年と犬』あらすじ
犬の名は多聞。2011年仙台を発ち2016年熊本に至るその長い旅の軌跡には傷つき、悩み、惑う人間の姿があったーー家族のために犯罪に手を染めた男(岩手県)、仲間割れを起こして故国を目指す窃盗団の男(岩手県から新潟県)、それぞれ別の名で犬を呼ぶ壊れかけた夫婦(富山県)、どん底の人生で体を売り男に貢ぐ女(滋賀県)、死期を迎えた老猟師(島根県)、そして震災のショックで心を閉ざした少年(熊本県)ーー束の間を共に生き、導き導かれる人と犬。はたして彼らの物語の終着点には何があるのか。