村上春樹「品川猿の告白」読書会報告2020年8月

2020年8月の読書会を開催しました。

 

開催日時:2020年8月19日(水)19時30分〜21時50分

開催地:東京(Le vin perdu)

参加者:ピクルス騎士団・団長、医務、書記=私、計3名

課題図書:村上春樹 著「品川猿の告白」(短編小説集『一人称単数』所収)(推薦者:ピクルス騎士団・医務さん)

一人称単数 (文春e-book)

一人称単数 (文春e-book)

 

今回、医務さんがこちらの課題図書を推薦してくださいました。

品川猿の告白」あらすじは前記事に掲載しています。↓ 

picklesknights.hatenablog.com

 

また、医務さんからは当ブログ開設にあたり自作のイラストを提供していただいています。↓

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当ブログのイメージキャラクター:トリジチさん

 

次に、読書会で使われたレジュメを掲載しますのでご覧ください。今回のレジュメは団長さんに作成していただきました。

・「品川猿の告白」レジュメ 作成者:ピクルス騎士団 団長

読書会はこのレジュメに対しての団長さん自身の注釈から幕を開けました。

 

以下、読書会で話の俎上にあがった項目をおよそ時系列順にかいつまんで記載します。

1.短編「品川猿」を話の軸にした項目:柄谷行人村上春樹の「風景」』に述べられている事について――大江健三郎の小説における固有名との比較――村上春樹の初期作品で頻出する語り手「僕」=超越論的主観が選択する「風景としての固有名」と「特権的な名前(直子)」の回帰――フロイトの錯誤行為との関連性――「急展開する」物語から「急展開の欠けた」物語へ

2.短編「品川猿の告白」を話の軸にした項目:品川猿」に登場する品川猿に比べてキャラクターが深く掘りさげられ言動はより性犯罪者の論理に近づいている――名前を盗む「猿」(のような存在)は「告白」によって増殖するのではないか

3.ジャック・ラカン「《盗まれた手紙》についてのセミネール」を話の軸にした項目:ラカンがポーの短編「盗まれた手紙」を題材にして説明したフロイト理論――抑圧されたものはじつは気づきやすいところにある

4.短編集『一人称単数』を話の軸にした項目:女性と「僕」の関係性――女性描写の簡略化――世間とフェミニストの批判対象になったセックス描写

5.短編「謝肉祭」を話の軸にした項目:ここには精神分析の対象になるものがあるかもしれない――クラシック音楽を聴く猿しかり、「謝肉祭」に登場する女性「F*」のように知的に見えるキャラクターによるのではないか――均一な「美しさ」とは対照的な個性を強調することで知的さが際立って見える

6.短編「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」を話の軸にした項目:たとえば「チャーリー・パーカー」が生存していたという「贋」(非日常性)を日常性に溶け込ませて書くような手法(=俗にいう「マジック・リアリズム」の一種)が、村上春樹の作品の中ではジャズや音楽を扱った物語で成功している――短編「一人称単数」とは、ありもしないものの登場の仕方に類似点がある

 

課題図書は「品川猿の告白」ですが、短編集の中の一編ということもあり、話題は短編集全体に及んだり別の作品や文芸批評に飛び火したりして、村上春樹が広範な影響力を持った作家でありつづけていること、またその作品群がそれぞれ非常に多面的な切り口を持ったものであることが改めて伺えました。

 

最後に、読書会アンケートを掲載して報告を終わります。読書会アンケートは僭越ながら私が作成し、今回の参加者2名に質問させていただきました。私自身は逆に他の参加者から質問があった場合にのみ答えました。

1.なぜ短編小説集『一人称単数』を手に取ったのですか

 医務さん:村上春樹の新刊だからです。

 団長さん:新刊棚で見て気になっていました。

 書記:村上春樹の新刊だからです。

2.村上春樹の小説が好きなのですか

 医務さん:好きです。

 団長さん:好きではありません。面白いと思わない。でも短編「謝肉祭」に書かれているシュタインやホルヴィッツの位置づけには感心しました。

 書記:好きです。

3.短編「品川猿の告白」もしくは短編集全体で印象に残った箇所はどこですか

 医務さん:I♡NYのシャツを着た猿がでてくるところです(「品川猿の告白」)。

 団長さん:パーカーのセリフ「ありがとう」、あるいは「そんなレコードはどこにも存在しない」(「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」)。

 書記:人間の言葉を話す猿が愛のアリアを口にし、自嘲ぎみに笑う場面です(「品川猿の告白」)。

4.なぜそこが印象に残ったのですか

 医務さん:かわいいからです。

 団長さん:かわい……

 書記:かわいいからです。

5.物語のテーマは好きですか

 団長さん:(短編集全体で)テーマを意識させるという方法は嫌いではない。 

6.物語の舞台に行ったことがありますか

 医務さん:群馬県のM温泉(「品川猿の告白」)が水上温泉万座温泉かであるとしたら行きました。

 団長さん:小金井(「石のまくら」)のアパートに住んでいたことがあります。学生の頃、不動産屋に家賃2万円で探してもらったんです。90歳代の大家がいて、その人が亡くなるまでという条件はありましたが、借りることができました。

7.登場人物に共感できますか

 団長さん:短編「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」の登場人物のようになりたい。

 医務さん:短編「品川猿の告白」で、品川猿とビールを飲みかわす「僕」には共感できます。私はビール飲めないんだけど。もう名前を盗んで人さまに迷惑をかけないという品川猿のことを信じたい。

 

以上、ピクルス騎士団による2020年8月読書会の報告でした。ここまでお付きあいいただきありがとうございました。

次回の読書会では、第163回直木賞(2020年上半期)を受賞した馳星周の『少年と犬』を課題図書に取り上げたいと思います。推薦者は、団長さんです。どうぞご期待ください。